本:ニワトリを殺すな Don’t Kill a Cock

「ニワトリを殺すな」という題名からは内容がつかみづらいが、要するに日本企業の問題、特に失敗を許さないこと、有意義な会議ができないこと、市場分析に偏重しすぎること、について書いた本である。内容は非常に読みやすく、分量も多くないため、1時間もあれば読み切ることができる。著者は外人で、本文中の会社も海外を舞台にしているが、内容はとても日本的であり、日本人が日本人向けに書いた本、という印象を受ける。

ニワトリを殺すな Don’t Kill a Cock

人が何かを行うということ、決断して行動するということは、試行錯誤の繰り返しである。成功することもあれば、失敗することもある。たくさん成功するためには、たくさん失敗する必要がある。失敗せず、成功できるのはコイン投げの達人だが、現実にはほとんどいない。コインを投げて、10回続けて表を出せる人は、1024人中に1人しかいない。

ここで、“ニワトリ”というのは、失敗して傷ついた人である。そしてニワトリ会議というのは、傷ついたニワトリを、周囲のニワトリがよってたかって傷つけてしまう、失敗した人を責め立てて、つぶしてしまうという会議である。

もちろん、”失敗すること”自体、”失敗すること”そのものは、良くないことである。人は誰しも、何らかの”成功”を収めるために行動している。しかし、どうしたら”成功”できるかということについては、決まった方法なんてない。それこそ、この余白はそれを書くには狭すぎる。しかし、”成功”のある一面を、数式にしてみると、

成功の数=チャレンジした回数×成功率

と表せるのではないかと思う。

つまり成功する数を増やすには、チャレンジする回数を増やすか、または成功率を上げる、という2通りしかない。
ニワトリ会議をすると、人は失敗することを恐れて、チャレンジをしなくなってしまう。チャレンジの回数が減ると、失敗の数は減るが、同時に成功の数も減ってしまう。そして、失敗から学ぶことも、成功から学ぶことも少なくなり、成功率も下がってしまう。

逆に、失敗を奨励する、失敗してもその人を責め立てない(当然、失敗に至るプロセスや、次に失敗しないための解決策は追求する)。そうすると、チャレンジの回数は増える。失敗する数は増えるが、成功する数も増える。失敗から学ぶこと、成功から学ぶことで、成功率も上がっていく。

もちろん、失敗を恐れて熟慮を重ねる事は、成功率を上げる要素になるかもしれない。だが、それよりも、失敗から学べないことの方が、ネガティブな影響が大きいのではないかと思う。そして重要なのは、”失敗をしないこと”ではなく、どのような試行錯誤の段階で失敗したのか、何が失敗の原因だったのかを学び、成功率を上げていくことだ。失敗した人を責め立てることは、有益なことではない。

「経験のないことをやって誤るのは本当の失敗ではない」
「失敗の数だけ成功も生まれる」

市場分析

市場分析では、今出ている商品の評判を探るのには役に立つ。しかし、次の商品、つまり市場にまだ出ていない商品を開発することには、役に立たない。本当に新しいものは、消費者のアタマの中にはない。逆に言うと、消費者が思いもよらなかった、全く新しい価値を提供する商品が、本当に新しいもの、と言える。本文中では、ウォークマン・ファミコンetc…を例に挙げて説明している。

技術偏重

「今の時代、もはや会社同士で技術力の差なんてほとんどないと思った方がいい。技術者で一番足りないものは技術ではなくなったんだよ」

一昔前、二昔前なら、技術力の差を武器に、優れた製品を作り、市場を席巻することができた。しかし、今では日本も中国も韓国も、技術力の差はほとんどない。仮にあっても、数ヶ月の単位ですぐキャッチアップされてしまう。優れた技術を開発したところで、すぐに陳腐化してしまう。当然、それで十分な利益を得ることは難しい。

人様に商品を売るのだから、人間の研究が大切。技術ではなく、人の心を知ること。人の喜怒哀楽を理解し、真に消費者に受け入れられる商品を創造すること(言うは易し、だけど)。技術というのは、一つの手段に過ぎない。

まとめ

この本の内容自体はスタンダードで、当たり前と思えるような事が書いてある。しかし、日本社会の問題を考える上で、いくつか重要なことが含まれている。

・たくさん失敗をするが、失敗の数だけ成功も生まれる。
・失敗の原因を調べ、次に生かすことが重要。
・ニワトリを殺すな。
・ただし、失敗を謝罪するだけで、そこから何も学ばないことは、一番良くない。
・市場分析で得られるものは少ない。
・技術力よりも、人の心を知ることが大切。

“ニワトリを殺すこと”に関して、残念ながら、今の日本は真逆の方向に行ってしまっている。何か問題が起きると、悪者をつくり、社会全体で徹底的に糾弾する。傷ついたニワトリをつるし上げる。浅田農産しかり、ホリエモンしかり。英語に訳すなら、censureやdenounceより、outrageやslaughterが的確な訳語になるだろう。

ニワトリ会議ならぬ、ニワトリ社会。
橘玲の言葉では、伽藍の世界、ネガティブゲームの世界。

ニワトリ会議をする会社の末路は見えている。
ニワトリ社会の行く末は、どうなるのだろうか?

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