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日経サイエンス 2013年3月

Scientists_montage「はやぶさ2」姿表す
ステルス病原体
ニューロンが話す言葉
出番近づくユニーク技術10:DNAを必要としない生命体
出番近づくユニーク技術10:呼吸を復活させるマイクロバブル
出番近づくユニーク技術10:アルツハイマー病の早期治療
出番近づくユニーク技術10:血糖で動くペースメーカー
自閉症と理系思考
風をとらえる凧型風車

「はやぶさ2」姿表す

2003年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」は、2005年に小惑星イトカワに到達。その後数々のトラブルに遭遇したものの、2010年に地球に帰還(大気圏突入)した。その後継機、「はやぶさ2」。

次に探査するのは、C型小惑星の1999JU3という小惑星。ちなみに、小惑星はスペクトルの違いで、主にS型(岩石)・C型(岩石と有機物)・D型(?)と分類され、「はやぶさ」が探査したイトカワは、S型小惑星に入る。

「はやぶさ2」が「はやぶさ」に比べてアップデートされた部分は、

とのこと。

予定通りに行くと、2014年冬に打ち上げ、地球に帰還するのは2020年末。惑星探査はスパンが長く、何年後に打ち上げ、その何年後に到達、帰還はさらに何年後、になる事が多い。2020年に自分が何歳になっているのか計算すると憂鬱になるが、「はやぶさ2」がもたらす成果を、首を長くして待ちたい。

ちなみに、「はやぶさ」は数多のトラブルに遭遇したが、その都度、JAXA技術者の努力・創意工夫・不屈の精神で乗り越えてきた。2003年から足かけ8年間、ずっとウォッチしてきた身としては、感無量だ。「はやぶさ」が遭遇した苦難を思い返すだけで、涙が出てくる。最後まで諦めず、最善を尽くしたJAXA技術者は賞賛に値する。

だけど、「はやぶさ」はあまりにギリギリ過ぎた。端的に言えば、リスク管理が拙劣だった。「多数の致命的なトラブルに見舞われたが、懸命の努力でかろうじて成功した」というのではなく、「想定内のトラブルは多数あったが、ミッション継続には何も問題なかった」というのが理想だ。もちろん、誰も到達したことのない場所へ行き、誰もしたことがないチャレンジを行うのだから、“想定外”ということはある。加え、欧米に比べて、圧倒的な低コストで小惑星探査をやってのけたJAXAは、素晴らしいとしか言いようがないけれども。

ステルス病原体

医学では未だに分からないことが多い。多いというか、分からないことだらけ。分かっていることの方が例外、と言って良いくらいだ。
慢性疲労症候群(慢性的な疲労感、頭痛、しびれ、痛み、認知機能障害)と、バルトネラ属(Bartonella)細菌の感染が関連しているかもしれないし、関連していないかもしれない、というお話。
バルトネラ菌の生態は特殊で、宿主に感染すると表面のタンパク質を変化させ、血管の内部に隠れることで、宿主の免疫系から逃れるらしい。この細菌については、「まだ氷山の一角すら理解できていない」(Jane Koehler)とのこと。

ニューロンが話す言葉

現代のコンピューターは、人間の脳に比べ、遙かに優れた計算能力を持っている。
単純な計算だったら、地球上の全ての人間より、たった一つのコンピューターの計算能力の方が高い、かもしれない。にもかかわらず、認識・思考の分野では、コンピューターより人間の脳の方が、遙かに優れている。エネルギー効率も人間の方が遙かに高い(100万分の1)。
この偉大なギャップ、個人的には、一般相対性理論と量子力学のギャップにも匹敵するほど重要なギャップは、一体どこから生まれるのだろうか?

記事では、ニューロンの電気信号(スパイク)では、タイミングが重要ということが書いてある。というか、それ以外特に身の無い記事だった。読んでいて思い出したのは、LSIの同期回路と非同期回路について。今後、コンピューターがさらに進化して、人間の脳の領域に踏み込むためには、効率に優れる非同期回路が重要になってくるかもしれない。

出番近づくユニーク技術10:DNAを必要としない生命体

DNAベースではなく、XNA(ゼノ核酸 xeno nucleic acid)ベースの生命体を作り出す試み。DNAベースの生命体をいじくるのにくらべ、安全性が高い(自然界に逃げ出しても、XNAが存在しないため死んでしまう。既存の生命体のゲノムに混入することがない)という利点があるらしい。

だけど、簡単にDNAとXNAの入れ替えが出来るものだろうか?DNAが単なる情報であり、DNAとXNAが単に情報の違い、例えばCDとDVD程度の違いだったら、簡単に入れ替えができるだろう。だけど、それ以上に機能面での違い、例えば日本語と英語くらいの違いがあったらどうだろう?

日本語の文章は、とりあえず英語の文章に翻訳できるものの、完全に1対1対応させることはできない。どうしても、英語では伝えきれないもの、日本語では伝えきれないもの、コンテキストで変わってしまうもの、が存在する。同様に、DNAとXNAを単純に1対1対応させることは出来ないかもしれない。その場合、(DNAとリンクした形で)XNAベースの生命体を作り出す事は、大きな困難を伴うだろう。

出番近づくユニーク技術10:呼吸を復活させるマイクロバブル

酸素を充填したマイクロバブルを注射することで、直接血液に酸素を投与することが出来るテクノロジー。この注射薬を使えば、気道から酸素を投与することなく、15分以上患者を生かし続けることができる、とのこと。欠点としては、マイクロバブルを投与し続けるためには、輸液を大量にしないといけないこと、二酸化炭素が貯留してしまうことが挙げられる。それに、実際にマイクロバブルが必要とされる場面(気道確保はできないが、血管確保はできている状況)はかなり稀、ということも欠点かもしれない。

出番近づくユニーク技術10:アルツハイマー病の早期治療

アルツハイマー病発症のメカニズムは、完全には解明されていない。コリン作動性仮説、タウ仮説、アミロイド仮説などいくつかの仮説はあるが、残念ながら決定的なものはない。現在も、アルツハイマー病の治療のため、多くの研究が行われている。
治療薬の一つに、アミロイドというタンパクを除去する薬が検討されている。アルツハイマー病の患者の脳には、アミロイドが沈着しており、アミロイドを除去することで、症状の改善が期待できる。ただし、アミロイドの沈着が、アルツハイマー病の原因なのか結果なのか、ということに関しては議論が分かれる(結果だったら、治療しても効果がない)。
最新の陽電子断層撮影法(PET)では、症状が現れる20年も前から脳にアミロイドが蓄積し始める事が分かっている。70歳でアルツハイマーが発症する場合、50歳には異常が出始めているわけだ。自分も、そろそろ物忘れが気になるお年頃。治療薬が早めに開発されることを期待したい。

出番近づくユニーク技術10:血糖で動くペースメーカー

今までのユニーク技術は、実用になるかどうかよく分からないが、こちらは可能性大。
現在の体内埋め込み型の医療機器(ペースメーカーなど)は電池で動いており、5年から15年で電池の交換が必要になる。将来は、血液中のブドウ糖を利用して電力を得ることで、電池交換が不要になるかもしれない。埋め込み型の医療機器の技術は確立しており、ブドウ糖から発電する技術もシンプル。生体適合性(免疫反応や、血液中での発電効率)の問題はあるが、実現する可能性は大きい。

自閉症と理系思考

理系の才能と自閉症が関係している、という話。

本記事では、自閉症に男子が多い(男女比は4:1、Asperger症候群では9:1)ことから、胎内でのテストステロン濃度と自閉症形質・理系思考の関連あるかもしれない、と推察している。実際、どのようなメカニズムで理系思考と自閉症が関連しているのかは分からないが、その2つが関係しているというのは、何となく納得できる話だ。

風をとらえる凧型風車

アメリカのマカニパワー社が開発した、凧型風車 Wing7。飛行機のような形状で、電力を使って上空250mまで上昇、上空を旋回し、風力を利用して発電する。重さは約55kgで、現在の発電能力は30kW。
とても面白い技術であり、上空なら地表と違い、風が安定しているという利点もある。しかし、エネルギーを変換する技術としては比較的複雑であり、メンテナンスコストや、墜落の危険性を考えると、実用になる可能性は低そうだ。