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スバル EyeSightで見る夢 後編

前半から続き

まとめ

スバルのEyeSightは、かなり実用性が高い。車線認識は未熟な部分はあるが、前方障害物認識の信頼性は高い。マンマシンインターフェース(機械と人間との仲介)も適切であり、介入するべき所は介入し、介入するべきでない所は介入しない。運転していて不快に感じることが少ない(時々、車線逸脱警報がシビアで、これくらい許してくれよ、と思うことはある)。

EyeSightは、自動車運転の領域で、機械の力が人間の力を超えつつある、“分水嶺”であると感じた。

長々と書いてしまったが、本当はこんな事を書きたいのではなくて、EyeSightの“次”を夢想して書き始めた記事である。

EyeSightの元となる、ステレオカメラと認識技術は、シンプルで安価ながら非常に応用力・将来性がある。車線認識とハンドル制御を組み合わせて、すぐにでもレーンキープに応用することが可能だろう(車線認識は未熟と書いたが、高速道路など、ハッキリと車線が決まっている場所では問題ない)。左右に広角カメラ、もしくは左右と後方にカメラを取り付けることにより、360°認識することも可能だ。そして、360°認識することにより、自動運転への道が拓けてくる。

おそらく最初のステップは、左右のカメラにより、車線変更警告(左右の車線に障害物があるときは、車線変更時に警告する)を出したり、後方カメラで後方障害物認識を行ったりする機能になるだろう。次のステップは、ハンドル制御だ。前方や側方に障害物を認め、衝突の可能性が高いときに、ハンドル操作を抑制したり、(さらなる危険を引き起こさない範囲で)機械が能動的にハンドル操作を行ったりする。これは、導入に際して、抵抗は比較的少ないだろう。

そして、車線認識や信号認識、障害物認識の精度が十分に上がると、いよいよ自動車が能動的に動く、自動運転が見えてくる。

予想される問題点

前方カメラにはワイパーがあるが、側方・後方カメラにはない。個別にワイパーをつければ良いかもしれないが、スマートな解決方法ではない。

逆光

1ヶ月に1-2回の頻度だが、朝日や夕焼けの影響で、EyeSightが無効になることがある。現状ではそれほど問題にならないが、自動運転では大問題だろう。逆光で車が動かない、なんて話にならない。

カメラの故障

カメラが故障して車が動かない、では困る。タイヤと同じように、スペアカメラを車に載せるか、もしくはカメラの規格を統一して、ロードサービス等で交換しやすくする必要があるだろう。

外見

前方のステレオカメラはそれほど目立たないが、側方・後方にも付くとなると、外見が問題になるかもしれない。Googleの自動運転車のように、屋根に付けるなんて問題外だ。

将来

今までは車の自動運転は夢物語だったが、EyeSightにより現実味を帯びてきたように感じる。自分が思い描く自動運転では、カメラによる周囲の情報・GPS・地図データ・車両情報、をコンピューターが統合・解釈し、最適なエンジン・ブレーキ・ハンドル制御を行い、目的地まで到達する事が出来る。

言うは易し。

おそらく、一つのOSをゼロから作り上げるくらいの大事業になるだろう。今のEyeSightとは比較にならない程、複雑で大規模なシステムになるだろう。

・現在のスバルのソフトウェア開発力では不十分だと考える。人員を増やす+ソフトウェアに強い企業(GoogleやMicrosoft)と提携が必要になるだろう。

・GoogleのAndroidの開発体制が参考になるかもしれない。コアの部分は共有し、各々の車種にカスタマイズを施して搭載する形にする。

・如何に慎重に開発を進めても、バグで人が死ぬのは避けられない。たとえ自動運転で自動車事故の犠牲者が劇的に減少したとしても、自動運転による犠牲者は大きな問題になる。補償体制を確立すること、オープンソースにする(バグを隠さない)ことが重要だ。この点でも、Androidの開発体制は見習うべき点が多い。

実現可能性

現在、1組のカメラのコストが約10万円なので、3組付けても30万、4組付けても40万だ。自動運転を実現するハードウェアのコストとしては、十分許容範囲内であると考える。ハンドル制御やその他の要因でコストアップしたとしても、量産効果により、トータルコストはそれほど上がらないだろう。

世の中には、(コスト面も考慮して)出来るかどうか分からない技術、がある。核融合炉(プラズマ維持、放射化対策)しかり、太陽光発電(蓄電技術、安定供給)しかり。そういった技術に対して、

「男はどうしていいかわからん時がいちばん面白いッ!!」

とか言って、技術開発に邁進するのも良いだろう。

しかし、EyeSightを使っていると、自動運転技術は、そういった技術から一歩抜け出したように思う。時間・労力・金さえかければ、実用に向かう技術だと思う。

“分水嶺”は、超えている。

市場規模

少し田舎に行くと、自分では歩くのもままならないような爺さんが、平気で車を運転している。もちろん、極めて危険なのは言うまでもない。そして、高齢者の交通事故は、増加の一途を辿っている。それでも、何故運転を続けてしまうかというと、

・今まで運転してきたというプライドがある。
・車がなければ、生活できない。

という切実な理由があるからだ。

そういう人達は、40-50万円の追加料金で、(自動運転が実現して)車に乗れるなら、喜んで支払うだろう。そして日本は、今後50年間、運転が出来ない超高齢者が増え続ける。

市場規模は極めて大きい。

結論

スバルはEyeSightという、コストが安く、優れた、そして普及しつつある技術を持っている。アドバンテージは極めて大きい。
そのアドバンテージを生かして、ハードウェアには弱いがソフトウェアに強い企業(GoogleやMicrosoft等)と提携し、自動運転の技術開発に全力を注ぐべきだ。音響技術に対するDolbyのように、自動運転技術に対するスバル、という立場になるくらいの気概でもいい。

単なる一つの自動車会社から、自動運転技術を統べるソフトウェアカンパニーになるチャンスを、スバルは持っている。

資料:
富士重工業 先進運転支援システム 新型EyeSight(アイサイト)