東日本大震災に端を発する電力問題は、幅広い分野に大きな影響を与えている。とても一つ二つの記事で書ききることはできないが、今回は、再生可能エネルギーのキーテクノロジーとなる、電力貯蔵に絞って記事を書いた。
風力、太陽光など、再生可能エネルギーの発想自体は素晴らしい。だが、決定的な問題は、エネルギーが必要なときに、必要なだけ取り出せない、ということだ(地熱等は除く)。風力は風が吹いているときだけ、太陽光は日が照りつけているときだけしか、発電することができない。一方社会には、十分な電力を、24時間365日、1分も欠かすことなく供給しなければいけない。風の吹くまま、日の照るままとは、あまりにギャップが大きい。
太陽光発電の買い取り制度に対しての、藤沢数希の記事
素人が作った、いつ棚に並ぶかわからない、品質も保証できない商品だけど、棚に並んだ時だけは、とにかくなんでも市場価格の10倍で買え、などという法律がおかしいということは5歳の子供でも分かることだろう。
太陽光発電の強制買い取り価格42円/kWh、20年間保証の異常、藤沢数希、アゴラ
にある通りだ。もっとも、市場価格は20円前後だから、10倍ではなく2-3倍くらいだと思うけど。
根底にある問題は、エネルギーを消費する技術に対して、エネルギーを貯蔵する技術が追いついていない事にある。消費する技術としては、レシプロエンジン・ジェットエンジン・モーターなど、一瞬で多大なエネルギーを消費(変換)する技術がある。しかし、その逆、エネルギーを貯蔵する技術を見ると、それに匹敵するほど大きなエネルギーを、安価に、効率的に、長期間保存できる技術は存在しない。
リーズナブル(つまり大量、安価、効率的)に電力を貯蔵できる技術があれば、不安定な再生可能エネルギーを補い、電力を安定供給することができる。再生可能エネルギーの使用にも見込みが立つ。逆に言えば、今のままでは見込みはない。現段階で、有望視されている技術、リーズナブルに電力を貯蔵できると期待されている技術がいくつかある。
揚水発電
水力発電では、水の流れを利用して発電機を回し、発電を行う。揚水発電では、逆に、電力を使って水を汲み上げることにより、エネルギーを貯蔵する。既に多くの実績があり、エネルギー効率も高い(80%程度)。しかし、場所が限られること、生態系に悪影響を及ぼすことが欠点として挙げられる。
圧縮空気貯蔵発電
空気を圧縮し、地下空洞に貯めることで、エネルギーを保存する。大規模化が可能なこと、効率がまずまずということは利点だが、立地場所を選ぶこと、自然環境に依存すること(空気洩れもある)が欠点だ。
高性能電池
広く使われている電池の延長。人間が全てコントロールできる(自然環境に左右されない)ため、信頼性が高い。効率が高いという利点もある。しかし、容量が少ない、つまりエネルギー当たりのコストが高い、という致命的な欠点がある。
熱貯蔵発電
油や溶解塩を500℃程度まで熱して、その熱エネルギーを保存する。場所を選ばないが、コストが高く、長期間の貯蔵が困難という欠点がある。長時間風が吹かず日も照らず、いざ熱貯蔵発電をしようとしたら熱が冷めてました、では話にならない。
今後
自分が思う、最もバランスがよい技術、つまり単純で、信頼性があり、安い、という条件を満たす技術は、揚水発電だと思う。というか、それ以外の技術は、何かしら決定的な欠点があり、再生可能エネルギーの欠点を補うには程遠い。その揚水発電を持ってしても、立地場所・環境負荷・コストの問題がある。
今後の技術開発、ブレイクスルーに期待したいが、エネルギーの保存技術の開発は今に始まったことではない。短期間(数年)で劇的な改善は望めないだろう。
まとめ
地熱等を除く再生可能エネルギーが普及するためには、電力を安定供給するための、電力貯蔵技術が必須になる。しかし現段階では、容量・コスト・効率など、全てに満足する技術は存在しない。そして、残念ながら短期間で劇的な改善は望めない。
将来の技術を夢見ることは自由だが、見通しが立たない中で再生可能エネルギーに邁進することは、のび太がドラえもんに縋りつくようなものだ。現実的な選択肢の中から、選択していく必要がある。
追記:
太陽光と水から、(低コストで大量に)直接燃料を作り出すことができれば、多くの問題を解決できるかもしれない(人工の葉で水素燃料、日経サイエンス、2011.1)。
参考:
原発から自然エネルギーへ カギ握る電力貯蔵、日経サイエンス、2012.6